急拡大するヴィーガン市場、畜産業から農家への移行プロジェクトとは?
ヴィーガン市場が拡大して食肉の生産が減ると、畜産業界で働く人たちはどうなるのでしょうか。アメリカの取り組みについてご紹介します。
これに伴い、食肉生産を支えてきた畜産農業者は仕事を失い、将来的には雇用危機に陥るとの見通しもあります。
そこで、非営利団体やヴィーガン企業などが立ち上り、畜産農業者を支援するプロジェクトを始めました。
本記事では、アメリカのヴィーガン市場や畜産支援プロジェクト、また日本の取り組みについてもご紹介します。
目次
アメリカではヴィーガン市場が拡大
アメリカではプラントベースの代替肉に人気が集まっています。その市場規模は、2030年までに現在の440億ドル(日本円で約6千2百兆円)の2倍以上になると予想されているほどです。
その理由の一つには、環境への意識の高まりが挙げられます。
コーネル大学とジョンズ・ホプキンス大学他が発表した新しい研究によると、牛肉用の牛の数を半分から1200万頭まで減らすと、農業分野における二酸化炭素の排出量が13.5%も削減できるとの見通しを立てています。
植物性の代替たんぱく質の市場が伸びれば、気候変動への影響を減らし、より持続可能な食のシステムをつくることが可能です。地球環境を守るために、プラントベースの代替肉が重要な役割を果たすと考えられています。
プラントベースにシフトするには畜産農業者への支援が重要
研究ではさらに、現在のアメリカの牛肉が植物由来の代替肉に置き換えられた場合、経済へどのように影響するかを比較しています。
それによると、たとえプラントベースに大幅にシフトしたとしても、国内総生産に与える影響は中立的であり、代替肉で生まれた利益は牛肉生産の損失をほぼ埋め合わせるとしています。つまり、経済に悪影響を及ぼすことは少ないという見解です。
ただしそれは、畜産労働者の生計、労働条件、人権、公正な賃金などが守られることが条件です。 特に牛肉の畜産業では、150万人の雇用を脅かす可能性があるといわれています。
もしこれらの労働者が職を失った場合、新たな仕事を見つけることができなければ、経済的な損失は避けられないでしょう。
畜産農業者の移行を支援するプロジェクト
こうした畜産業界の問題は、経済的な損失に加えて労働者を混乱に陥れることになります。そこで、これらの労働者を支援しようと、非営利団体やヴィーガン企業が立ち上がりました。注目すべき2つのプロジェクトをご紹介します。
ブレイブ・ニューライフ・プロジェクト(Brave New Life Project)
「ブレイブ・ニューライフ・プロジェクト(Brave New Life Project)」は非営利団体が運営し、1対1の就職支援や研修、戦略的パートナーシップを提供することで、他分野への転職に困難を感じている労働者を支援しています。労働者と家族がより良い雇用機会を得られるようにサポートするほか、地球にとってより持続可能なプラントベースの農業システムに移行する役割も果たしています。
転職を希望する労働者が受けられるサービス内容は、
- 今後のキャリアプランの相談
- 履歴書の書き方や翻訳サービス、就職の面接指導、就職あっせん(無料)
- 法的支援サービス
- メンタルヘルスプログラムへの参加
などに加えて、その他の必要なサポートの紹介を受けることができます。
これまで取り残されていたと感じていた労働者が、希望を感じられるサポートをするのが目的です。
ファーマー・ツールキット(Farmer Toolkit)
2022年の初めには、プラントベースの乳からチーズやバターを製造するヴィーガンブランドのMiyoko’s Creameryと、動物福祉団体のMercy For Animals (MFA) と Animal Outlook (AO) が提携し、畜産農家がプラントベースの事業に移行するための資金調達を担う「ファーマー・ツールキット・ツールキット(Farmer Toolkit)」というプロジェクトを立ち上げました。
このプロジェクトでは、畜産農家に次のような情報や支援を提供しています。
・作物を栽培するためのノウハウ
・州固有の資源や作物のマーケティング
・助成金やローンを申請するためのヒント
・オンラインセミナー
MFAの移行プロジェクトのディレクタ―であるホイットニー氏は、「政府やプラントベースの食品業界は、畜産農家が他分野に移行するための十分な機会を提供するために、強力な役割を果たすべきだ」と述べ、畜産業の支援を呼びかけています。
また、このプロジェクトでは、プラントベース産業への参入を希望する畜産農家に資金と認証を提供。実際、畜産農家がヘンプとキノコの農場に事業を移行した成功例もあります。
ホイットニー氏は、畜産農家は牛などの動物の代わりに、植物を育てて生計を立てていけばよく、それを支援するための資源とモデルを開発していると言います。
プラントベースの市場が拡大する中、畜産業の労働者がスムーズに他分野へ移行するために、積極的な支援が行われています。