動物性食品を食べない「ヴィーガン」になる理由は人それぞれですが、世界全体としてはどのような傾向があるかご存知でしょうか。
大きな傾向として、
- 健康志向
- 環境への配慮
- 動物福祉
の3つがあると言われています。
今回は、アンケートなどのデータを活用しながら、それぞれの理由を解説し、またその背景についても探っていきます。
はじめに:世界と日本のヴィーガン人口は?
まずは、ヴィーガンの人口がどのくらいなのかを確認しておきましょう。
その前に、動物性食品を一切食べないヴィーガンから、植物性食品と動物性食品の両方を食べるオムニボアまで、「食べる○/極力食べる量や頻度を減らす△/食べない食品×」の3つに分けて、ヴィーガンなどの定義を見ていきます。
ヴィーガン食等の定義
名称 |
植物性食品 |
動物性食品 | |||
肉 | 魚 | 卵 |
乳製品 |
||
ヴィーガン |
○ |
× | × | × |
× |
ベジタリアン |
○ |
× |
× | ○ |
○ |
ペスカタリアン |
○ |
× | ○ | ○ |
○ |
フレキシタリアン |
○ |
△ | △ | ○ |
○ |
オムニボア |
○ |
○ | ○ | ○ |
○ |
参考:Ipsos MORI, An exploration into diets around the world. Ver. 1, 2018、農林水産省「令和2年度 フードテック振興に係る調査委託事業の報告書」
上記の表を説明すると、
- ヴィーガン
「動物性食品を一切食べない人」
- ベジタリアン
「肉・魚は食べないが、卵・乳製品等の動物性食品は食べる人」
- ペスカタリアン
「肉は食べないが、魚・卵・乳製品等の動物性食品は食べる人」
- フレキシタリアン
「肉・魚は時々食べる程度に減らし、卵・乳製品等の動物性食品は食べる人」
- オムニボア
「植物性食品と動物性食品の両方を食べる人」
です。今回はこの定義を使ってデータを読み解きます。
世界のヴィーガンは3%
それでは早速、世界のヴィーガン人口の割合を見ていきましょう。
世界のヴィーガン人口は、次にご紹介する日本と比べて多く、世界ではよりヴィーガンが広まっていることがうかがえます。
2018 年20,313 人の成人男女を対象として、日本を始めとした28 カ国で実施した調査(An exploration into diets around the world)によると、ヴィーガン3%、ベジタリアン5%です。
参考:Ipsos MORI, An exploration into diets around the world. Ver. 1, 2018
また、年齢別のベジタリアンの人口割合を見ていくと、卵・乳製品を食べないベジタリアンは、16-34歳の若年層に多く、逆に肉を食べるオムニボアは少なくなっています。
参考:Ipsos MORI, An exploration into diets around the world. Ver. 1, 2018
ペスカタリアンやフレキシタリアンを含めると、何らかの形で動物性の食事を控えているという人は、日本より多いという結果でした。
また、世界のヴィーガンは、若い世代から広まっていることがうかがえます。
日本のヴィーガンは約2%
それでは、日本はどうでしょうか。
2021年Vegewelが2,413人を対象にして行った調査によると、ヴィーガン2.2%、ベジタリアン3.8%、フレキシタリアン15.8%となっており、ヴィーガンについては、世界の3%(2018年)より少ない数字です。
しかし、ヴィーガン人口は、2017年に比べて増えており、フレキシタリアンも大きく数を伸ばしています。
出典:『日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査 by Vegewel』
世界のヴィーガン人口割合には届かないものの、全体的に見ると、肉を一切、または時々しか食べない人口が増加している傾向にあります。
日本の20-40代前半の68.7%は海外のヴィーガン事情を知っている
次は、世界でヴィーガンが拡大していることが、日本ではどのくらい知られているのかという調査です。
良く知っていると答えた人は、18.1%、少し知っているは50.6%、聞いたことはあるがあまり知らないは23.5%となっており、少なくとも知っていると答えた人は、92.2%に上っています。
※2020年時点で20~40代前半の年齢層が対象
参考:農林水産省「令和2年度 フードテック振興に係る調査委託事業の報告書」
これは、海外でのヴィーガン情報が日本に届いており、心理的に何らかの影響を与えている可能性が考えられます。
そのことを踏まえ、海外でヴィーガンが増えている理由と、日本の意識を一緒に見ていきましょう。
ヴィーガンになる理由や定義、海外の若者がヴィーガンを選択する理由については、こちらの記事もご覧ください。
「ヴィーガンになる理由とは?定義やベジタリアン、フレキシタリアンとの違いも紹介」
理由1. 健康志向
イギリスでは「健康のため」が49%
ヴィーガンが増えている国の一つ、2022年ヴィーガン人口が3.1%であるイギリスを例にとってみます。
調査によると、イギリスで、肉食を制限したり、減らしたりしている理由で一番多いのは、「健康のため」で49%です。
また、「体重管理のため」が2番目に多く29%で、上位2つが体の健康に関わる理由になっています。
テニスプレーヤーのビーナス・ウィリアムさんも、体調の改善のためにヴィーガンを取り入れていることは知られています。
16%が健康的な食に関するブログを発信するブロガーに影響を受けている
また、16%の人が、
フードライターのエラ・ウッドワードさんのブログ(Deliciously Ella)や、
同じくフードライターのヘムズリー姉妹(Hemsley sisters)など、
健康的な食に関するブログを発信するブロガーに影響を受けたというデータがあります。
日本では40%が食生活を改善したいと思っている
変わって、日本ではどうでしょうか。
人が食事を改善する意思があるかどうかを質問したアンケート結果によると、何らかの改善をしたいと考えていたり、すでに取り組んでいたりする人は、男女共に4割近くになっています。
食生活改善の意思(20歳以上、性別)
問:あなたは、食生活を改善してみようと考えていますか。
男性 | 女性 | |
改善するつもりである(概ね6カ月以内) | 13.3% | 14.9% |
近いうちに(概ね1カ月以内)改善するつもりである | 3.8% | 4.8% |
既に改善に取り組んでいる(6カ月未満) | 5.8% | 7.9% |
既に改善に取り組んでいる(6カ月以上) | 14.6% | 15.6% |
合計 | 37.5% | 43.2% |
この調査では、BMI※の数値が普通~高い人に、特に食生活の改善の今の意思が見られることが分かっています。
※体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数
食事に問題があるという認識を持っている人が一定の割合いて、その中でも適正な体重になって健康でありたいという人がいることは、ヴィーガンの植物性の食生活を取り入れようと思う一つの理由になることも考えられます。
ヴィーガンと健康については、こちらの記事もご覧ください。
「ヴィーガンと健康|WHOも認める赤肉摂取とがんリスクの関係について解説」
理由2. 環境への配慮
イギリスでは「環境のため」が24%
イギリスで、ヴィーガンになる理由として「健康のため」「体重管理のため」の次に多いのは、「環境のため」24%です。
肉の生産には、飼料の栽培に使う重機や輸送の燃料などから二酸化炭素、そして、家畜の排せつ物を堆肥にする際にメタンガスが排出されます。これらは、温暖化を進める温室効果ガスです。
一方、植物生産の場合、栽培時の二酸化炭素のみと、肉と比べて温室効果ガスの量は少なく、環境に優しいとされています。
日本では環境に配慮した食生活をしたい人は67%
日本の環境に対する意識はどうでしょうか。
気候変動などの環境に配慮した食生活をしたいという人は、「とてもそう思う」「ややそう思う」と合わせて67.6%でした。
※2020年時点で20-40代前半の年齢層が対象(n=1,000)
参考:農林水産省「令和2年度 フードテック振興に係る調査委託事業の報告書」
ここでは、食品ロスや廃棄物を極力減らすことで環境に配慮したいという設問ですが、20-40代前半の年齢層で、気候変動と食生活との結びつける意識が高いことが分かります。
食で環境問題を解決したいという気持ちが、ヴィーガン食への関心につながることもあるでしょう。
大豆ミートを食べたいと思う人は55.6%
また、最近スーパーやファーストフード店でも見かけるようになった大豆ミート。気候変動問題の解決策の一つとして、大きな注目を集めています。
大豆ミートなどの代替肉について、「積極的に食べたいと思う」「少しは食べたいと思う」と答えた人は合わせて55.6%。
※2020年時点で20-40代前半の年齢層が対象(n=1,000)
参考:農林水産省「令和2年度 フードテック振興に係る調査委託事業の報告書」
半数以上の人が、大豆ミートなどの代替肉を好意的に受け止めています。
気候変動に対して何かしたい、代替肉や食事の内容で貢献したいという意思が、ヴィーガンになる理由になると考えられます。
ヴィーガンと環境問題については、こちらの記事もご覧ください。
「ヴィーガンと環境問題|畜産業が地球温暖化に与える影響はどれくらい?」
理由3. 動物福祉
イギリスでは「動物福祉のため」が24%
イギリスで「動物福祉のため」をヴィーガンになる理由に挙げる人は、「環境のため」と同率の24%です。
私たちの生活は、食用や衣料用などで、動物を犠牲にしています。そのため、動物の命を尊重し、保護しようという意識からヴィーガンになる人もいます。
キャンペーンにより肉を食べないメリットを知った人は39%
イギリスでは、39%の人が、肉の消費を減らそうというキャンペーンにより、肉食を制限するメリットを知ったと言います。
肉を食べない日を月曜日と定めた「ミートフリーマンデー」
ベジタリアンを推進するイベントが行われる「ナショナル・ベジタリアン・ウィーク」
毎年1月にヴィーガンになろうというキャンペーン「Veganuary」
などから影響を受けているそうです。
このような運動では、ヴィーガンが健康だけでなく、環境保護や動物福祉に貢献することを訴えているため、ヴィーガンになる大きな動機になっていると受け止められています。
日本ではヴィーガンに関心があり動物製品を制限している人は26.3%
日本では、ヴィーガン、ベジタリアンに「とても関心がある」「やや関心がある」と回答し
た割合は合計40.8%。
そのうち、「動物製品を一切利用しない」「動物製品をなるべく利用しない」という人が合わせて26.3%います。
※2020年時点で20~40代前半の年齢層が対象(n=1,000)
参考:農林水産省「令和2年度 フードテック振興に係る調査委託事業の報告書」
ヴィーガンに関心のある人は、意識的に動物製品を使用することを避けるケースもあることが分かります。
この割合は、動物福祉の観点から、イギリスでヴィーガンになる人の割合と同じくらいです。
ヴィーガンのキャンペーンやSNS配信がポイント
日本のヴィーガンは約2%で、世界の3%と比較すると少ない人口です。
ヴィーガンが増えているイギリスを例にとってみると、「健康のため」「環境への配慮」「動物福祉」の3つが、ヴィーガンになる大きなきっかけになっています。
そして、ヴィーガンは、16-34歳の年齢層が多いこと、ヴィーガンを呼びかけるキャンペーンや、健康に関わる情報を発信するブロガーから影響を受けていることが分かりました。
日本では、20-40代前半の人たちの間で、海外のヴィーガン情報を得ており、その影響を受けていると考えられます。また、環境保護や動物福祉の意識も持っていることも一つの要因です。
国内外でヴィーガンのキャンペーンやSNSでの発信など、ヴィーガンの魅力を伝える情報が多くなれば、今後もヴィーガンになる人は増えていくでしょう。
イギリスのヴィーガン情報についてはこちらの記事もご覧ください。
「ヴィーガン大国イギリスの特徴を徹底解説。日本で買えるものもご紹介。」
参考
Ipsos MORI, An exploration into diets around the world. Ver. 1, 2018
『日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査 by Vegewel』