自動車による、環境への負担が課題となってずいぶん経ちます。
世界中の自動車メーカーは、排気ガス問題はもちろん、さまざまな環境課題に取り組んでいます。
最近特に進んできているのが、「サステナビリティ」をテーマにした取り組みです。
海外の高級車メーカーをはじめとして、本革の使用を減らしていき、合成皮革などのヴィーガンレザーが採用されることが増えてきました。
自動車だって、ヴィーガンの視点で選びたい。
そんな方のために、実際に、どのような素材が、どんなメーカーで使用されているのか、調査してみました。
「高級=本革」の概念が変わりつつある自動車分野
自動車の内装には、牛革が多く使用されてきました。
本革ならではの風合いや、経年するごとになじむ感覚など、革にもメリットはあります。
しかし、本当にそれは必要でしょうか?
カーシートには、何頭分もの動物の革が使用されています。その多くは牛です。
牛革のために飼育される牛はいないとされていますが、牛が生育するための牧草の消費、げっぷのメタンガス産生、命の犠牲などの問題は、そこについて回ります。
大きな話題となったのは、電気自動車メーカーの「テスラ」が、ヴィーガンモデルを発表し、100%レザーフリーの自動車が誕生したことでしょうか。
いままでは、高級志向であるほど、レザーシート、レザーハンドルに価値を置くのは、メーカーだけでなく、ユーザーにも根強いものでした。
しかし、本物と区別がつかないほどの人工皮革が開発された今、その流れは変わってきています。
リサイクル素材を原料にしたヴィーガンレザーは、量産できないことや、技術的なコストもあり、本革と同じように高価なものです。
「環境だけでなく、動物の尊厳を守るのも、地球の未来をより良いものにしていくための人間の責務」
真に本物を求める、時代を作る人たちがそこに気づき、行動を起こしています。
「高級=本物」の概念は、変わりつつあります。
自動車分野においても、その流れは確実に大きくなっていると言えます。
【出典】
人工皮革|日本化学繊維協会(化繊協会) (jcfa.gr.jp)
【参考】
テスラがヴィーガン仕様の車をリリース!テスラがエシカルな理由も紹介 | ハッピーキヌア ヴィーガン情報 (happy-quinoa.com)
「レザー=贅沢」はもう古い? 高級車メーカーが続々と本革の使用中止に踏み切るワケ | GENROQ Web(ゲンロク ウェブ) (motor-fan.jp)
自動車に使われているヴィーガンレザー
1. ALCANTARA(アルカンターラ)| 合成皮革
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1970年、日本企業の東レが開発した「エクセーヌ」という人造皮革。
当時、「アダムとイヴのイチジクの葉以来、人が纏うもっとも画期的な素材」と評価されるほど、革新的なデビューとなりました。
その後、東レと、イタリアのファブリックメーカー「ENI」によって起こされた合弁化ルトラスエード®)」となっています。
合成皮革としては、高級ファブリックと位置付けられるまでに成長した素材です。
生地の構成比率はポリエステル80%、ポリウレタン20%。化学繊維で作られています。
太さは、0.21デシテックス。これは換算すると、直径約0.04mm程度になります。
日本人女性の髪の毛の太さは、平均しておよそ0.08mmと言われていますので、その半分の太さくらいになります。
2019年発売の、生産台数わずか63台、2億8千万円超えという、ランボルギーニの限定モデル「シアン FKP37」にアルカンターラが採用されたことでも、大きな話題になりました。
そのほかにも、さまざまな自動車に、アルカンターラ®は使用されています。
・光岡自動車「Himiko」(メーカーオプション)
・アウディe-tron GTのステアリング
・レクサスLS特別仕様車の天井部分の素材、FTスポーツタイプのシート(ウルトラスエード®として)
その他、メルセデスベンツ、BMW、ランボルギーニ、アストンマーチン、マセラティなどの高級外車をはじめ、国産各メーカー車では、上級グレードのインテリアなどに、アルカンターラが採用されています。
【出典】
アルカンターラ オフィシャルサイト:Alcantara (アルカンターラ):公式ウェブサイト
インスタグラム:Alcantara Company(@alcantara_company)
東レ ウルトラスエード®:ウルトラスエード® | TORAY (ultrasuede.jp)
MOBY(モビー) | 最高級シート「アルカンターラ」とは?唯一の欠点は価格が高いこと?
【参考】
ランボルギーニ「シアンFKP37」
光岡自動車「Himiko」
アウディジャパン「e-tron GTクワトロ」
2. VEGEA(ベジェア)| アップサイクルレザー
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ベントレー100周年記念モデル、「コンチネンタルGT3」のシートに使用された、サステナブルレザー「VEGEA(ベジェア)」。
VEGEAは、イタリアで、そのマテリアルと同じ名前の会社によって製造されています。
「VEGAN」と、母なる地球という意味の「GEA」を組み合わせてできた名前で、その名のとおり、動物由来のものを限りなく使用しない製品を作っている企業です。
超高級車のベントレーに使用されて話題になったVEGEAの素材は、ワインを製造した際に出る、ブドウの搾りかすを使用した、ヴィーガンレザーです。
製造過程も、限りなくナチュラル。
まず、原料を乾燥させ粉にします。そこに、麻布(リネン)から採られたオイルと、菜種油、着色料を加えて攪拌します。
ペースト状になったものを、オーガニックコットンやリサイクルコットン、リサイクルポリエステルに塗り、バイオマスポリマーなどと加工します。
ベントレーのシートに使われたことが有名ですが、ほかにも、ファストファッションブランドのH&Mに使われたり、マルニ、カルバンクラインなどでも起用されています。
【出典】
VEGEA オフィシャルサイト:VEGEA:ファッション&デザインのための革新的な生体材料 (vegeacompany.com)
インスタグラム:VEGEA(@vegeacompany) • Instagram写真と動画
ぶどうの絞りかすを使ったヴィーガンレザー「VEGEA」 | ソーシャルグッドCatalyst (socialgood.earth)
【参考】
H&M VEGEAの情報:H&M Japan (hm.com)
Lecoq sportif Italy / TERRA
3. nordiko(ノルディコ)| リサイクル原料を使用した人工皮革
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スウェーデンの自動車ブランド、VOLVO CARSは、ブランド初となる電気自動車「C40 Recharge」に、ボルボ・カーズが開発した人工皮革「nordico」の使用しています。
また、これを皮切りとして、2025年までに、ボルボ・カーズの新車に使用される素材の25%を、リサイクル素材や、バイオベースの材料を使用し、2030年までには、電気自動車のみを販売、レザーフリーを実現すると宣言しました。
ボルボC40リチャージに使用され、今後も車両に使用されていくボルボオリジナルのヴィーガンレザー、nordico。
これは、「スウェーデン、フィンランドの森林から得たバイオ素材、ペットボトル、ワインのコルクなどを再生したテキスタイル」と説明しています。
ゼロから生み出すのではなく、リサイクルして作るヴィーガンレザーなのですね。
シートはもちろんのこと、ステアリングに至るまで「人工皮革」を使用していくことを決めた、ボルボ・カーズ。
日本にも販売店が多くあるので、実際に試乗もしやすく、現実的な選択肢となるのも魅力です。
【出典】
ボルボ・カーズ ジャパン | nordicoの情報: VOLVO CAR JAPAN PRESS SITE (vcj-press.jp)
ボルボ、本革の使用を廃止に 新型EV全モデルで 新型「C40 Recharge」から|ニフティニュース (nifty.com)
4. Dinamica®(ディナミカ)| リサイクル原料を使用した人工皮革

アウディの電気自動車シリーズの「e-tron GTクワトロ」では、オプションパッケージを選択すると、人工皮革と、リサイクル素材から抽出したポリエステル繊維など、レザーフリーなインテリアにすることができます。
この人工皮革は、日本企業である旭化成の、「Dinamica®(ディナミカ)」というファブリックです。
超極細繊維と水系ポリウレタンからなる、独自の三層構造を持つ人工皮革です。
リサイクルポリエステルをはじめ、通常ならば廃棄されるような繊維くずや、ペットボトル由来のリサイクル原料を使用しているのも特長です。
化学メーカーとして始まった旭化成は、その高い研究実績や技術力を活かし、化学繊維業界では、水系のポリウレタンを使用する先駆けとなるなど、環境へのアプローチも確かです。
また、ディナミカ®を自動車に使用されている例は、アウディだけではありません。
メルセデスベンツには、2013年にすでに採用されていたことがわかりました。
さらに、自動車だけではなく、ステラマッカートニーなど、ファッションにも採用されています。
【出典】
旭化成 Dinamica® オフィシャルサイト:Dinamica® | Asahi Kasei AUTOMOTIVE (asahi-kasei-mobility.com)
【参考】
メルセデス・ベンツ、専用設定の内外装と安全装備で魅力を高めた特別仕様車「C 180 Edition C」 – Car Watch (impress.co.jp)
5. セルクロス® | 防水・透湿性を備えた合成皮革

日産のアクティブSUVといえば、エクストレイル。
防水シート搭載をアピールするために、雪にまみれて、濡れたままで荷物を積み込み、シートに座るCMを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
そのシートに使用されているのが、スミノエ テイジン テクノ株式会社の「セルクロス®」です。
日産がセルクロス®を起用した自動車は、エクストレイルだけではありません。
仕事だけでなく、サーフィンなどをされる方にも人気の「キャラバン」では、「プロスタイル」というモデルにも起用されています。
残念ながら、素材、原料など詳細は、どうやら企業秘密のようで明記されていませんでした。
しかし日産がこのセルクロス®を起用した理由は、防水機能だけではないことがわかりました。
セルクロス®は、高い防水性だけではなく、透湿性にも優れています。
その機能性は、「湿式発泡技術」という技術によって実現しました。
そのウレタン樹脂を、下地へ塗布する際に工夫を施し、摩耗性も向上させ、耐久性に優れた合成皮革と言えます。
アクティブに、豪快に遊びつくしたい方の車には最適ですね。
【出典】
スミノエ テイジン テクノ株式会社 | セルクロス®について:取扱製品について|スミノエ テイジン テクノ株式会社 (suminoe-tt.co.jp)
エクストレイルの防水シートを実現した合成皮革 | 日産ギャラリーフォトギャラリー (nissangallery.jp)
【参考】
2017年のキャラバンに対する内容ではありますが、セルクロス®の機能性についてのレビューです。
NV350キャラバン専用防水シート | NV350キャラバンの全て (nv350caravan.com)
まとめ
こうしてみると、たくさんの自動車メーカーが、一歩ずつ、レザーフリーへと移行しているように感じますね。
しかし、この、自動車に使用されるヴィーガンレザーは、ひとくちに「レザーフリー」「ヴィーガンレザー」と言っても、植物性レザーとは限らないことがわかりました。
毎日のように利用する自動車は、人の手や体が触れる部分も多く、屋内で管理することができない場合には、高温の炎天下にさらされる場合もあります。
また、誕生してから時間の浅いヴィーガンレザーは、技術開発なども発展途上であり、ファブリックそのもののコストが高いことも課題のひとつです。
そして、レザーフリーへの転換において、日本はまだまだ消極的という印象も受けました。
環境後進国と揶揄されている日本でも、もっとサステナブルな生活が当たり前になれば、きっと自動車にも反映されるでしょう。