動物の犠牲を終わらせる大きな一歩、「精密発酵」を徹底解説
精密発酵とは?動物性の原料を一切使わず、チーズやアイスクリームなどを作ることができる!?動物を守るための最新技術をご紹介します。
日本は、世界の動物衛生の向上を目的とする機関「国際獣疫事務局(OIE)」に1930年に加盟し、同局の勧告により、家畜を快適な環境下で飼養して家畜のストレスや疾病を減らす飼養管理を普及してきました。
しかし近年、それらを根本から解消できる方法が発見されています。それが「精密発酵」です。
この記事では、精密発酵とは何か、メリットと現状、精密発酵に関連する企業をご紹介します。
目次
精密発酵とは
精密発酵とは、微生物に特定の遺伝子を組み込んで発酵させることで、タンパク質をつくる技術のことです。例えば、微生物に乳タンパク質の遺伝子情報を入れて水や糖分などとともに発酵させると、牛の乳を使わずに乳製品ができます。
精密発酵により生産されている食品には、ミルクやチーズ、ハンバーガーのパテなどがあります。この技術を使えば、動物性の原料を使わずに食品を作ることのできるのが特徴です。
精密発酵のメリット
精密発酵のメリットは、先に述べたように動物の犠牲を伴わないで食品を作ることができることです。
乳製品を例にとってみましょう。牛乳を生産する際には、牛を短いロープでつないで飼育する方法が多く用いられています。
この「つなぎ飼い」には、狭い農地でも飼育できるなどの利点があります。
一方で、牛が自由に行動できずストレスを感じるなどの欠点もあるのも事実です。精密発酵を使えば、飼育による牛の負担をなくすほか、食肉の場合は動物の命を犠牲にすることもありません。
さらに、畜産において使用する水や、排出する温室効果ガスを削減できます。
精密発酵の現状
動物の犠牲を減らす動物福祉や畜産における環境・資源問題などを受けて、動物性タンパク質の代替を作ることができる精密発酵は大きな注目を集めています。
世界で精密発酵を行う企業のうち、代替タンパク質の開発・生産を行っているのは88社です。また、代替タンパク質用の精密発酵を行う企業が調達した金額は、2021年で16.9億ドルに上っており、前年から285%も増加しています。
さらに、代替タンパク質用の精密発酵を行う企業が25カ国に最低1社はある計算です。※
代替タンパク質を作る精密発酵の市場は急激に伸びており、今後もその意義や役割は重要性を増してくると予想されます。
※GFI “State of the Industry Report: Fermentation”
精密発酵に関連する企業
精密発酵に関連する企業を2社ご紹介します。1社目は、チーズの開発に取り組む企業ニュートロピー(Nutropy)、2社目は、パーフェクトデイ(Perfect Day)です。
ちなみに、営利団体GFIが公開している精密発酵に関わる企業のリストによると、実際に食品を製造している日本企業はありませんでした。
アニマルフリーなチーズを作る「ニュートロピー(Nutropy)」
パリに本部を置くニュートロピー(Nutropy)は、持続可能で健康的であり、動物福祉にも配慮するため、精密発酵を利用した本格的なチーズを開発ししています。
まず、酵母に遺伝子を組み込んで発酵させると、カゼインタンパク質(乳タンパク質の1つ)と乳脂肪酸がつくられます。
それを他の成分と混ぜていったんミルクにした後、チーズに加工されるという手順です。
こうしてできたチーズは、アニマルフリーとしてヴィーガンの方でも食べることができます。
新たにバイオロジービジネスのサービスを開始する「パーフェクトデイ(Perfect Day)」
アメリカに拠点を置くパーフェクトデイ(Perfect Day)は、精密発酵により乳製品の開発・製造を行っています。
同社はこれまでにさまざまなブランドと提携し、クリームチーズやアイスクリームを作ってきました。
また、卵の代替品やアニマルフリーのプロテインなどをレストランに提供しています。
そして、これらの知識や技術などを他社に提供する「biology-as-a-service」というサービスを開始し、より環境に優しい食品づくりを求める企業を支援したいとしています。
精密発酵で動物を守る
精密発酵は、動物性の原料を一切使用せず、微生物と発酵の力でタンパク質を作ることのできる技術です。
食肉や乳製品を生産する際に、動物の犠牲が払われることもないため、動物福祉の理念を達成することにもなるでしょう。
さらに、畜産における水資源や温室効果ガスなどの環境問題にも貢献できるため、今まさに必要な対策を行うことができます。
今後普及が進んだときに、動物への負担がどのくらい減少しているのか期待したいところです。
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